洋書をたずねて3千字

海外小説の1章目を翻訳して紹介しています。

『プロジェクト:ヘイル・メアリー』Andy Weir(2021)

f:id:youshorobo:20211101100651j:plain


「2+2は何ですか?」
この質問には何かイラッとするものがある。疲れた。私は再び眠りに落ちた。
数分後、再びその声が聞こえてきた。
「2+2は何ですか?」 
女性らしい柔らかな声で、感情がなく、発音も前と同じだ。それはコンピューターの声だ。コンピューターが私を困らせている。余計にイライラしてきた。
「もにょもにょ」と私は言う。私は驚いた。「放っておいてくれ」と言おうとしたのだ。私に言わせれば全く妥当な答えなのだが、言葉を発せなかった。コンピューターは「不正解です」と言う。「2+2は何ですか?」 
実験の時間だ。挨拶をしてみよう。「むにゃ?」と言ってみる。
「不正解です。2+2は何ですか?」
どうなっているんだ?私は状況を理解したいのに、そのための感覚がなかった。目は見えない。コンピューターの音以外は、何も聞こえない。感じることすらできない。いや、それは違うな。何かを感じる。私は横になっている。何か柔らかいものの上にいる。ベッドだ。
目は閉じていると思う。それは大した問題じゃない。目を開ければいいのだから。やってみても、何も起こらない。
なぜ目が開かない?
開け。
ええい...開け!
クソッ、開いてくれよ!
おっ!その時、小刻みな動きを感じた。まぶたが動いた。感じた。
開け!
まぶたがよじ登り、まばゆい光が網膜を焦がす。
「ぐっ!」 と私は言う。意志の力で目を開け続けた。何もかもが白く、痛みで曇った。
「眼球運動を検出しました」と私の尋問者が言う。「2+2は何ですか?」白さが和らいでいく。目が慣れてきた。形が見えてきたが、まだはっきりとしたものはない。えーと、手は動かせるかな?いや。
足は?足もダメ。
でも、口は動かせるよね?私は何かを言っていた。意味のある言葉ではないが、何となくだ。
「むにゃむにゃ。」
「不正解です。2+2は何ですか?」
形が意味を持ち始める。私はベッドの中にいる。なんだか...楕円形の形をしている。
LEDライトが私を照らしている。天井にはカメラがあって、私の動きを監視している。不気味ではあるが、それよりもロボットアームが気になる。
天井から吊るされた2本の鏡面スチール製のアーム。それぞれのアームには、手があるべきところに、不穏なまでに妨害的に見える道具がそろっている。その見た目が好きだとは言えない。
「いぉ...ん...」と私は言う。これでいいかな?
「不正解です。2+2は何ですか?」
困った。私はすべての意志の力と内なる強さを召喚する。あと、少しパニックになってきた。いいね。それも活かそう。
「よぉぉんん」と私はついに言う。
「正解です。」
やった。喋れる。一応。
私は安堵のため息をつく。待って、私は今、呼吸をコントロールした。もう一回、わざと息を吸う。口が痛い。喉が痛い。でも、それは私の痛みだ。自分でコントロールできる。
私は呼吸用のマスクをしている。顔に密着していて、頭の後ろにあるホースにつながっている。
立ち上がることはできるか?
できない。でも、頭は少し動かせる。自分の体を見下ろしてみる。私は裸で、数え切れないほどのチューブにつながれている。両腕に1本ずつ、両足に1本ずつ、「紳士用装備」に1本、そして太ももの下に消えている2本。そのうちの1つは陽の当たらないところに刺さってるんだろう。
それは良くない。
あと、私は電極で覆われている。心電図のようなセンサータイプのシールだが、それがあちこちに貼られている。少なくとも、私の中に刺し込まれているのではなく、皮膚の上にあるだけだ。
「こ...」と私は声を上げた。もう一度やってみる。「ここは...どこ...?」
「8の立方根は何ですか?」とコンピュータが聞いてくる。
「ここはどこ?」私はもう一度言う。今度は簡単だ。
「不正解です。8の立方根は何ですか?」
深呼吸をして、ゆっくりと話す。「2掛けるeの2-i-π乗。」 
「不正解です。8の立方根は何ですか?」
でも、間違っていなかった。ただ、コンピュータがどれだけ賢いのか見てみたかったのだ。答え:あまり賢くはない。
「2」と答える。
「正解です。」
次の質問を待ったが、コンピューターは満足そうだった。
私は疲れた。私は再び眠りに落ちた。

目が覚めた。どのくらい気を失っていたのだろう。身体が休まった感じがするから、しばらく立ったに違いない。何の努力もせずに目を開けることができる。これは進歩だ。
指を動かしてみる。指示通りに動く。よし。これで何かが見えてきた。
「手の動きを検知しました」とコンピューターが言う。「じっとしていてください。」
「え?なんで...。」
ロボットアームが私に向かってくる。その動きは速い。気がつくと、私の体からほとんどのチューブが取り除かれていた。私は何も感じなかった。とはいえ、私の皮膚はかなり麻痺している。
残っているのは腕の点滴、お尻の管、そしてカテーテルの3本だけだ。後者2つは、私が特に外して欲しかった2つだが、まあいいだろう。
私は右腕を上げて下ろした。左腕も同じようにする。とても重く感じる。これを何度か繰り返した。私の腕は筋肉質だ。それは解せない。何か大きな病気を患っていて、しばらくこのベッドにいたのだと思う。そうでなければ、なぜ私にいろいろなものを接続しているのだろう?筋萎縮が起こっているべきでは?
そして、医者がいるべきではないのか?それとも病院の音がするとか?それにこのベッドは何だ?長方形ではなく楕円形で、床ではなく壁に取り付けられているような気がする。
「管を...」言葉が途切れた。まだちょっと疲れている。「管を抜いて...。」
コンピューターは反応しない。
私はあと何回か腕を上げ下げした。足の指を動かしてみる。私は確実に良くなっている。
足首を前後に傾けてみる。動く。膝を上げてみる。私の足もよく引き締まっている。ボディビルダーのような太さではないが、死の間際の人間にしては健康的すぎる。でも、どのくらいの太さがいいのかはわからない。
手のひらをベッドに押し付けて押す。胴体が上がる。実際に起き上がっている!すべての力が必要だが、私は頑張る。私が動くと、ベッドは静かに揺れる。普通のベッドではないことは確かだ。頭を上に上げると、楕円形のベッドの頭と足が、丈夫そうな壁掛けに取り付けられているのが見えた。堅いハンモックのようなものだ。変だ。
やがて、私はお尻のチューブを下敷きにして座っている。快適な感覚ではないが、お尻のチューブが快適なことがあるだろうか?
私は今、辺りがよりよく見える。ここは普通の病室ではない。壁はプラスチックのようで、部屋全体が丸くなっている。天井に取り付けられたLEDライトからは、真っ白な光が差し込んでいる。
壁にはさらにハンモックのようなベッドが2つ取り付けられていて、それぞれに患者がいるようになっている。私たちは三角形に配置されていて、屋根に取り付けられたうっとうしいアームは天井の中央にある。私たち3人の面倒を見てくれているのだろう。私と同じように布団に潜り込んでいるので、同胞の姿はあまり見えない。
扉はない。ただ、壁に梯子がかかっていて、そこから...ハッチ?丸い形をしていて、中央にハンドルが付いている。ああ、きっとハッチの一種だろう。潜水艦のように。私たち3人は伝染病を患っているのかもしれない。ここは気密性の高い隔離室なのかも?壁のあちこちに小さな通気口があって、少し空気の流れを感じる。管理された環境なのかもしれない。
私は片足をベッドの縁に滑らせて、ベッドをぐらつかせた。ロボットアームが私に向かって突進してくる。私はたじろぐが、彼らはすぐに立ち止まり、近くをうろうろしている。私が倒れたときに掴む準備をしているのだろう。
「全身の動きを検出しました」とコンピューターが言う。「あなたの名前は何ですか?」
「おいおい、本気か?」 と聞く。
「不正解です。試行回数2回目:あなたの名前は何ですか?」
私は答えようと口を開く。
「えっと...。」
「不正解です。試行回数3回目:あなたの名前は何ですか?」
今になってようやく気がついあ。自分が誰なのか分からない。自分が誰なのか、自分が何をしているのか分からない。全く何も覚えていないのだ。
「えーと」と私は言う。
「不正解です。」 
疲労の波が私をとらえた。もはや、ちょっとした快感だ。コンピューターが静脈注射で私を鎮静させたに違いない。
「...待っ...て...」と私はつぶやく。
ロボットアームが、私をそっとベッドに寝かせる。

私は再び目を覚ました。ロボットアームの一つが私の顔の上にある。何をしているんだ!?
私は何よりもショックを受けて身震いした。アームは引き下がり、天井に格納される。私は自分の顔に傷がついていないか確認する。片方は無精ひげで、もう片方はつるつるだ。
「剃っていたのか?」
 「意識を検知しました」とコンピューターが言う。「あなたの名前は何ですか?」
「それはまだ分からないんだ。」
「不正解です。試行回数2回目:あなたの名前は何ですか?」
私は白人で、男性で、英語を話す。確率に賭けてみよう。「ジョン?」
「不正解です。試行回数3回目:あなたの名前は何ですか?」
私は腕から点滴を抜く。「私を噛んで。」
「不正解です。」ロボットアームが私に向かって伸びてくる。私はベッドから転がり落ちたが、それは間違いだった。他のチューブはまだつながっている。尻のチューブはすぐに出てくる。痛くもない。まだ膨らんでいるカテーテルは、私のペニスからすぐに引き抜かれる。これは痛い。ゴルフボールをおしっこするようなものだ。
私は悲鳴を上げ、床に悶えた。
「身体的苦痛」とコンピューターが言う。アームが追いかけてくる。私は床を這って逃げる。他のベッドの下に潜り込む。アームは届かなくて止まるが、あきらめない。待つのだ。彼らはコンピューターに操られている。忍耐が切れるということはないだろう。
私は仰向けになり、息を吸う。しばらくすると痛みが和らぎ、涙を拭う。
何が起こっているのか、さっぱりわからない。
「おい!」私は声をかける。「誰か、起きてくれ!」
「あなたの名前は何ですか?」コンピューターが尋ねる。
「人間の誰か、起きてくれ、頼む。」
「不正解です。」とコンピューターが言う。
股間が痛くて笑うしかない。あまりにも滑稽だからだ。それに、エンドルフィンが効いてきて、目が回ってしまう。私は寝台のそばにあるカテーテルを振り返った。驚きと恐れで頭を振った。あれは私の尿道を通っていたのだ。すごい。そして、抜ける途中でいくつかのダメージを受けた。地面には小さな血の筋が残っている。薄い赤い線で...。

私はコーヒーを飲み、最後のトーストの切れ端を口に入れ、ウェイトレスに合図して会計を済ませた。毎朝ダイナーに行く代わりに、家で朝食を食べればお金の節約になったかもしれない。私のわずかな給料を考えれば、それは良いアイデアだったかもしれない。しかし、私は料理が嫌いで、卵とベーコンが大好きなのだ。
ウェイトレスはうなずき、私の会計を済ませるためにレジに向かった。しかし、その瞬間に新たなお客さんが入店してきた。
私は時計を見た。午前7時を過ぎている。私は7時20分までに出勤して、その日の準備をする時間を確保したいと思っていた。しかし、実際には8時までは仕事をする必要はないのだ。
私は携帯電話を取り出して、メールをチェックした。

宛先:天文学の不思議 astrocurious@scilists.org 
差出人:(イリーナ・ペトロワ博士)ipetrova@gaoran.ru 
件名:薄い赤い線

私は画面に顔をしかめた。私はそのメーリングリストから退会したと思っていた。随分前にその人生から離れた。コンテンツの量はあまり多くないが、記憶によれば、たいていとても面白いものだった。天文学者や宇宙物理学者、その他の分野の専門家たちが、奇妙に感じたことについておしゃべりしていただけだ。
私はウェイトレスに目をやった。お客さんはメニューについてたくさんの質問をしていた。おそらく、サリーズ・ダイナーではグルテンフリーのビーガンの芝生か何かを提供しているのかを聞いているのだろう。サンフランシスコの善良な人々は、時に耐え難いものがある。
他にすることもないので、私はメールを読んだ。
こんにちは、専門家の皆さん。私はロシアのサンクトペテルブルクにあるプルコボ天文台で働いているイリーナ・ペトロワ博士と申します。
助けていただきたいことがあってメールしています。
この2年間、私は星雲からの赤外線放射に関する理論を研究してきました。その結果、いくつかの特定の赤外光のバンドで詳細な観測を行いました。そして、星雲ではなく、私たちの太陽系の中に奇妙なものを見つけました。
太陽系内には、25.984ミクロンの波長で赤外線を放射する、非常に微弱だが検出可能な線があります。それは、その波長のみで、ばらつきがないようです。
私のデータをまとめたExcelスプレッドシートを添付します。また、そのデータを3Dモデルとしてレンダリングしたものもいくつか用意しました。
このモデルを見ると、太陽の北極から3700万kmにわたってまっすぐに伸びる、弧状の線であることがわかります。そこから急激に下降し、金星に向かって太陽から遠ざかっていきます。弧の頂点の後、雲は漏斗のように広がっています。金星では、弧の断面が惑星の幅と同じくらいになります。
赤外線の光は非常に微弱です。星雲からの赤外線放射を探しているときに、非常に感度の高い検出器を使っていたため、検出することができたのです。
念のため、私はチリのアタカマ観測所に連絡を取ってみました。彼らは私の発見を確認してくれました。
惑星間空間で赤外光が見える理由はいろいろあります。太陽の光を反射している宇宙塵などの粒子かもしれません。あるいは、何かの分子化合物がエネルギーを吸収して赤外線を放出しているのかもしれません。そうすれば、同じ波長であることの説明もつきます。特に気になるのは、円弧の形です。最初は、磁力線に沿って移動する粒子の集まりではないかと考えました。しかし、金星にはそもそも磁場がありません。磁気圏も電離層もありません。どんな力で粒子が弧を描くのか?また、なぜ光っているのでしょうか?
ぜひご意見をお聞かせください。

今のはいったい何だ?
一気に思い出した。何の前触れもなく頭の中に現れた。
自分のことについては大して学べなかった。サンフランシスコに住んでいることは覚えている。そして、朝食が好きだということ。また、以前は天文学に興味があったが、今はそうではない?
どうやら私の脳は、そのメールを覚えておくことが重要だと判断したようだ。自分の名前のような些細なことではなく。
潜在意識が何かを伝えたがっている。血の線を見て、あのメールの件名「薄い赤い線」を思い出したんだろう。でも、それが私に何の関係があるんだ?
私はベッドの下から身をよじって出てきて、壁に腰掛けた。アームは私の方に向いているが、まだ届かない。
私の仲間の患者を見てみよう。自分が何者なのか、なぜここにいるのかはわからないが、少なくとも一人ではないーーと思ったら死んでた。
うん、確実に死んでいる。私の一番近くにいたのは女性だったと思う。少なくとも、髪は長かった。それ以外は、ほとんどミイラだ。骨の上に乾燥した皮膚が覆いかぶさっている。匂いはない。積極的に腐っているものもない。彼女はずっと前に死んだに違いない。
もう一つのベッドにいたのは男だった。彼はもっと前に死んでいると思う。彼の皮膚は乾燥して革のようになっているだけでなく、崩れ落ちている。
そうか、私はここで2人の死人と一緒にいるのか。嫌悪感や恐怖感を抱くべきだが、そうではない。人間とは思えないほどの姿になっている。ハロウィンの飾り付けのようだ。どちらとも親しくなかったことを願うよ。あるいは、親しくしていたとしても、それを覚えていないことを願う。
死体も気になるが、それよりも彼らがこんなに長くここにいることが気になる。隔離エリアであっても、死人は排除されるのではないだろうか?相当悪いことが起きているのかもしれない。
私は自分の足で立ち上がる。ゆっくりとした動きで、かなりの努力が必要だ。私はミイラさんのベッドの端で体を支える。ベッドがぐらぐらして、それに合わせて私もぐらぐらするが、私は直立している。
ロボットアームが私を捕まえようとするが、私は再び壁に張り付いた。
確かに私は昏睡状態だった。そうだ。考えれば考えるほど、私は間違いなく昏睡状態だった。
いつからここにいるのかわからないが、もしルームメイトと同じ時期にここに入れられたのであれば、かなりの時間が経っている。剃り残された顔をこする。このアームは、長期的に意識を失った状態を管理するように設計されている。私が昏睡状態だった証拠だ。
あのハッチのところへ行けるかな?
私は一歩踏み出した。そしてまた一歩。そして、床に沈んだ。私にはもう限界だ。休まなければならない。
こんなに筋肉がついているのに、なんでこんなに弱いんだろう。昏睡状態にあったのなら、なぜ筋肉があるのだろう。今の私は、ビーチボディではなく、枯れて痩せこけているはずなのに。
私は自分が何をすればいいのか、検討もつかない。私はどうすればいい?私は本当に病気なのか?もちろん、気分は最悪だが、「病気」とは感じない。吐き気もしないし、頭痛もしない。熱もないと思う。もし病気でないなら、なぜ私は昏睡状態にあったのだろう?体の傷は?
頭の周りを触ってみる。しこりや傷跡、包帯はない。体の他の部分もかなりしっかりしているようだ。それ以上だ。引き締まっている。
眠たいけど、私は我慢する。
もうひと頑張りしてみよう。私は身体を押し上げ、再び立ち上がる。ウェイトリフティングのようなものだ。でも、今回は少し楽だ。どんどん回復している(と願う)。
私は壁に沿って移動する、足と同じくらい背中を支えにしながら。アームは絶えず私に向かって伸びてくるが、私は範囲外にいる。
私は息を切らす。マラソンをしたような気分だ。もしかしたら、私は肺炎を患っているのかもしれない。もしかしたら、私は自分を守るために隔離されているのかもしれない。
やっとの思いでハシゴにたどり着いた。私はよろめきながら前に進み、梯子の一つを掴んだ。私はとても弱い。10フィートの梯子をどうやって登ればいいんだ?
10フィートの梯子。
帝国単位で考えている。これはヒントだ。私はたぶんアメリカ人だ。あるいはイギリス人。あるいはカナダ人かもしれない。カナダ人は短距離ではフィートとインチを使う。
私は自分に問いかける:ロスアンゼルスからニューヨークまでどれくらいの距離があるのか?私の直感的な答えは3,000マイルだ。カナダ人ならkmを使うだろう。ということは、私はイギリス人かアメリカ人。それともリベリアから来たのか。
リベリアが帝国単位を使っているのは知っているが、自分の名前は知らない。これにはイライラする。
私は深呼吸をした。両手でハシゴにつかまり、一番下の段に足をかける。体を引き上げる。震えながらも、なんとかやり遂げる。両足が下の段についた。手を伸ばして次の段を掴む。順調に進んでいる。全身が鉛でできているような気がして、何をするにも力がいる。体を起こそうとするが、手に力が入らない。
梯子から後ろ向きに落ちてしまう。痛くてたまらないだろう。
でも、痛くない。地面に落ちる前に、ロボットアームが私をキャッチしてくれた。拍子抜けすることもない。彼らは私をベッドに戻し、まるで母親が子供を寝かしつけるように私を落ち着かせた。
そうだな。これでいい。この時点で私は本当に疲れていて、横になっているのが私には合っているのだ。優しく揺れるベッドが心地いい。梯子から落ちたときのことが気になって仕方がない。私はそれを頭の中で再現する。はっきりとした理由はわからないが、何か...違和感を感じる。
うーん。
私は眠りについた。

 

...続きが気になった方は、原著を購入して著者に還元しましょう🕊

 

原題:Project: Hail Mary
著者:Andy Weir

 

---

免責事項

当該和訳は、英文を翻訳したものであり、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照して頂くようお願い致します。当記事で掲載している情報の著作権等は各権利所有者に帰属致します。権利を侵害する目的ではございません。